TEXT/YUJI UEDA

米軍横田基地フェンスの内側で暮らしてるミナ

国道16号線沿いの、すすけた金網の内側に建つ日本人従業員用アパートメントの2 階 。

「窓からね、フトン干してるの見つかると怒られるの。……敵が空から見て、

どこに爆弾落とせばいいかバレちゃうと困るから」 

正面ゲートのビジター受付で「親戚の者です」って嘘ついてまんまともぐりこませてもらった。

 ここは米軍基地の中。――US MILITARY YOKOTA AIR BASE。

 核戦争まで想定してるレーダーが、アラスカから中東までを見渡している。

日本に二つしかない4000メートル級の滑走路も完備した、在日米軍の有事の際の最重要拠点。

――そんな場所で生きてる24歳、沖縄から来たミナの部屋。

「仕事場はここから歩いて5分ぐらいのビルの地下。会計課で働いてる。

やってることはまぁ普通のOLさんと変わらないと思う」 

そんなに楽しくはないけど、「日本のフツーの会社みたいに、べつに仲良しでもない人の結婚式に出る必要がない。

基本的にやることをやってれば文句は言われない」雰囲気を彼女は気に入っている。

基地で働きはじめたのは、大学時代にアメリカに旅行して「もっと英語が話せたらいいのに」

と思ったのがきっかけ。普天間基地でバイトをはじめて、横田に来て2年。

軍事基地の中にいるというシリアスなムードはあまり感じない。

それよりも、「今でも映画の中にいるような気分」。

「軍人さんは軍人さん。私たちとはほとんど交流がないからね」

けれども一つだけ、頭に焼き付いてる光景がある。

それは去年の夏のある日の夕暮れのことだった。

基地内では毎日定刻5時に、スピーカーから一斉に合衆国国歌が流れる。

ミナが仕事を終えて、遊びに出かけようとしてたちょうどその時、直立不動で国旗の方角に向かい敬礼を捧げる、

若い黒人兵士が寮の前に立っていた。

強い西日をかみしめるような表情で、額に汗をにじませながら、直立不動で立っていた。

「かっこいいなって思った。……誰も見てないのにホント真剣にやってるんだなって思った」

 けれど、それはやはり人それぞれ。

「文句ばかりいう人もいる。It SUCKS !って。やってられねぇって、自分で決めて入ってきたのに、

そればっかの人もいる。……だいたいみんな4年間の契約で入隊する。

終わったら大学に安く行ける契約になってたり、資格をとって条件のいい仕事につけるシステムになってる。

……アメリカの軍隊って、そういうシステムになってるのね」

 空前の好景気と伝えられる米国にも、出口無しの気分で生きてる若い連中はゴマンといる。

 映画「ファイトクラブ」に出てきたSTARBUCKS COFFEE でエスプレッソなんかすすってるヤッピーを、

ASS HOLESって罵りながら生きてる、いつだってノー・チョイスの連中。

高卒で軍隊に入ってくるのは多分そんな連中のなかの一人だ。

金網の中の4年間とひきかえに、うまくいけば未来へのパスポートが手に入る。

それはある意味とても民主的なシステムで、また見方を変えればこんなふうにも思える。

――事が起これば真っ先に最前線に放り込まれ、爆弾でミンチ肉みたいに吹っ飛ばされてくたばるのは、

いつだってそういう金のない若い連中なんだ、と。

「いつかゼロに戻るときが来ると思うのね。戦争はいつか必ず起こると思う。

人間ってまた同じことをやっちゃうんじゃないかと思う。だから神様にお願いする。

ミナとロブが生きてるうちだけはやめてっていつもお願いする」

 ミナがハンドルを握る、ホワイトルーフの黒いミニクーパーに乗って僕らは基地の外に出た。

 助手席に座ってる、証券マンのロブとは長野のレイヴで知り合って4カ月になる。

「兵隊とだけは結婚するな」と言った、父との約束を彼女は守ろうとしている。

 国道沿いの「スタミナ太郎」――2000円ですしと焼き肉が食べ放題っていう、

それにしてもすげぇ名前のファミレスで、

「たった4カ月で、それぐらいで決めていいの? って言う人もいる。

言葉だって完璧に通じるわけじゃないのに、とか。……でも結局、

地獄を見るとしたらそれは私たちなんだから」

そんなことを言いながら、ミナはカルビの焼け具合をしっかり確認していたりした。

肩すかしの世紀末を見送った後で、僕らはこれからもだらだら生き延びていくしかない

ことを知った。

甘美な終末は、映画の中にしかない。

沖縄の女の子はダイエットがどうのこうの言わずによく食べる。

明日のことなんか知るか、って感じで食べる