TEXT/ASAYO TAKII

“今”をもっと楽しまないと。ヨウコはそう思っていた。

だから思い切り、遊んだ。恋もした。

でも、18歳の時、ふと不安になった自分がいた……。

 人生は人それぞれ。

 ずっと昔から、ヨウコはそう思ってる。だから、中3の時、高校には行きたくなかった

一応進学はしたけれど、1年の終わりで辞めた。

「自立したかったし、学歴なんてなくても人は生きていける、って思いたかった。

でも、もしかしたら、ただ遊びたかっただけなのかも。

今を精一杯楽しまなくちゃ、それだけで、先のことなんて考えてなかったから」

居酒屋でアルバイトして、彼氏と毎日会っていた。ちょうどコギャルが注目されはじめた世代だったから、

女友達と遊ぶ時は学校の制服を着て出かけてた。

 その後同棲もしたし、夜の店でのアルバイトもはじめた。

「高校生活は送れなかったけれど、その分学校に行ってるみんなは経験していないことを経験してきた。

だから、それはそれでよかったって、プラスに思うことにしてる」

いつかは何かをやろうと思ってた。漠然と、社長になって、バーを経営することも考えていた。

でもヨウコにとって、それは遠い遠い先の話。大切なのは、今この時。

ただただ、毎日を目一杯遊ぶことしか頭になかった。そして、友達が高校を卒業する18歳の頃。ふと思った。

 私、将来どうなるんだろう……。

「今の自分には、なにもない。何かになるための努力もぜんぜんしていない。

このままでいいんだろうか、って一気に不安になってしまって」

そんな時、街で声をかけてきたキャッチセールスの青年に誘われて、エステサロンの美容部員になることに。

それからは、真面目に働いた。しばらくして、その店を辞めて別のサロンで働こうと思った時

水商売で成功した年上の女の人に言われた。

「あなた、もっと自分の視野を広げなさい。世の中知らないことが沢山あるわよ」

それがきっかけで、エステで働くことはやめた。自分の知らないことが沢山あるというのなら、

もっといろんなことをやってみないと、と思った。いろんな経験をして、本当にやりたいこと、

本当に好きになれることを見つけたい、と思った。

だから、ここ数年のテーマを、“自分探し”に決めた。

それから夜の六本木の店で働きはじめ、現在に至っている。もともと、接客業は好き。

人の話を聞くのって、いろんな世界が見えてくるから、楽しい。そんな中で、ヨウコは少しずつ、

さまざまな挑戦をはじめている。

たとえばある時、海外旅行によく行く知人が、旅行中の写真を見せながら言った。

「人生は面白いことばっかりやで」

それは刺激的な言葉だった。

「そんなことが言えるなんて羨ましかった。きっとその人らしく生きてるから、そう言えるんだろうな、って。

私も、自分らしく思えることを見つけたかった」

だから、自分も旅に出てみることにした。今年の4月、知人を訪ねてバリに行った。

 はじめての海外旅行。10日間の旅に、所持金は1万6000円だけ。

「私は英語さえできないのに、みんなオープンに話しかけてきてくれて。お金がないって言うと、

相手だってお金持ってなさそうなのに、ごちそうしてくれたり。とにかく、

人の笑顔が自然だってことが、一番印象に残ったこと」

ちょうどその頃、いろいろ悩み事を抱えていた。毎日のんびりして、散歩にでかけ、いろんなことを考えた。

一人でぽうっとするなんて、それまでしたことがなかった。

 はじめて、自分と真っ正面に向き合っていると感じた。

「心にあった壁や、肩に入っていた力がすうっとなくなっていく気がして。今までの生活の中で、

自分が自然じゃなくなっていたってすごくよく分かりました。その旅の間、感じたことを日記につけていたんですが、

今読むとすごく詩人チックな文章。恥ずかしくて人には見せられないんですよー」

今でも、その時に書き留めた言葉は大切に自分の中にしまってある。この先も、

もっともっと、自分の中の言葉を増やしていきたいと思ってる。

「いいことでも悪いことでも、今のうちに何でも経験しておかなくちゃ、と思う。そのな

かで、本当にやりたいことを見つけられたらいいなって思っている」

 今現在しか見つめていなかった瞳が、少しずつ、未来を映しはじめている。