山口小夜子

●山口小夜子さんが亡くなった(2007.1.21 BLOG)


京朋カレンダー 

1977年夏、フリーになって3年目の28歳の僕に、横尾忠則さんから直接電話があった。

横尾さんとは僕が篠山さんのアシスタント時代、一緒にインドに行った縁だ。

週刊プレイボーイ誌で僕が撮った、アメリカの女性ロックグループ「ランナウエーズ」の写真を褒めてくれた。

ところで着物のカレンダー撮影して欲しいんだけど、という。

座に受けたものの打ち合わせで、そしてその顔ぶれに事の重大さを知った。

着物は三宅一生さんが「フライングイッセイ」というファッションショーで使った洋服の生地から制作しスタイリングする。

柄の多くを横尾さんがテキスタイルデザインをしたものだ。

モデルは、世界的なモデルの山口小夜子さん

ヘアメイクは大御所の川邊サチコさんだった。

僕以外全員スターだ。

横尾さんは、表紙を入れると計7カットが必要だという。

表紙はUPを使用することにして、着物6点6シチュエーションの撮影になった。

内容は全てなにからなにまで横木くんが考えて撮るように、と言われた。

僕は、着物を海辺で撮りたかった。

通常着物の撮影は、ポーズをとり、定番の動きのなかで撮る。

洋服と同じように自由に動き回りたかった。

の頃僕は静岡の浜岡砂丘周辺にたびたび通っていた。

いまでは全く想像できないが広々とした砂丘が広大にうねっていたからだ。

なんどもロケハンに行き、拠点である宿泊場所を御前崎観光ホテルに決めた。

僕以外多忙な人たちだ。

着物6点を明け方から日没まで、まる1日で撮るスケジュール組んだ。

天気のことは考えなかった。

晴れるに決まっていると。

まあ雨さえ降らなければなんとかなる。

僕は二日前から現場に来て綿密に予定をチェックした。

天気も良さそうだ。

日の夜、横尾さん一行はホテルに到着した。

僕は挨拶して着物をチェックし仮眠を取った。

午前4時、大型のロケバスに乗り出発、暗闇を走った。

予定していた大井川河口に着いたがまだ真っ暗だ。

空に星が見える。ジェネを回し、ライトをつけた。

暗い背景のままテストをはじめる。

小型ストロボを発光させ背景のわずかな朝の光りが浮かび上がるように同調さなければならない。

ようやく空に微妙なグラデーションが浮き出てくる。

覚めるような赤い着物。

小夜子さんに玉砂利の海岸に座ってもらう。

人形のようなイメージ。

僕が口を挟むまでもなく、小夜子さんは妖艶に動き出す。

僕はひたすらシャッターを押す。

朝食後、ホテルの近くの海岸で2月3月、7月8月の2カットを撮影した。

昼食後、再び大井川に戻り、今度は中洲のなかにある浅い水の流れに寝てもらった。

小夜子さんはつらいともいわず長時間じっと水に浸かっていた。

気はよく順調な撮影だった。

残りは浜岡砂丘の近くの海岸で2カットを撮るだけだ。

事件が起きる。

9月10月用の夕景カットを撮影中。

小夜子さんは取り憑かれたように砂浜をさまよう。

と、一瞬口から小夜子さんが何かを吐き出す。

そしてスローモーションで倒れてゆく。

僕はひるむことなくシャッターを押し続ける。

の写真は倒れる寸前の小夜子さんだ。

後で一生さんや横尾さんに、そんな写真家根性を褒められた?

きっと午後の強い陽射しの下、約1時間、もしかしたらもっと長かったかもしれない。

水の中でかなり消耗したのだろう。

後の撮影が終わると真っ暗になっていた。

夕日を浴びた撮影中、横尾さんは、ひとり座禅をくんで、メジテーションをしていた

事撮影が終わった。

打ち上げをすることもなく、多忙な彼らは帰っていった。

僕とロケバス、ロケアシ、そしてアシスタントは全員くたくただった。

いいものが撮れた感触はあった。

なにより山口小夜子のプロ根性を知った。

(京朋 きもの元年カレンダー1978)

表紙  Canon F1 200mm f2.8 KR 500w アイランプ1灯

1月2月 Canon F1 FD24mm f2.8  KR サンパック1灯

3月4月 Canon F1 200mm f2.8 KR バルカーストロボ 

5月6月 Canon F1 50mm f1.4  

7月8月 CanonF1 24mm KR

9月10月 Canon F1 24mmf2.8 KR サンパック1灯

11月12月 Canon F1 FD24mm KR アイランプ1灯


AD Tadanori Yokoo

Cos Issey Miyake

Hair Make Sachiko Kawabe

Model Sayoko Yamaguchi

Photograph Alao Yokogi

Aug 1976

Kyoho Kyoto KIMONO GANNEN


写真があがると横尾さんは、この写真は横木君の作品だからと、写真の上にいっさい文字をのせず、

カレンダーのタマなどすべてを月ごとに、別刷りのビニールフィルムに印刷した。

そのため、ビニールをはずすと、文字のないポスターになった。

この年のカレンダーの賞を受賞した。

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